大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和24年(ネ)499号 判決

控訴人は原判決はこれを取り消す。被控訴人は昭和二十二年六月三日控訴人の弁護士名簿登録請求進達拒絶に対する不服申立を理由なしとした処分を取り消して、東京弁護士会に対して控訴人の弁護士名簿登録請求の進達をなせとの命令をなせ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却するとの判決を求めた。当事者双方事実上の陳述は、被控訴代理人において、昭和二十四年九月一日弁護士法は改正せられ、爾後被控訴人は弁護士会に対する監督の権限をもたないことになつた、それで、仮に控訴人主張のように控訴人の不服申立を理由なしとして却下した被控訴人の決定が取り消されたとしても、被控訴人は東京弁護士会に対して登録の進達を命ずることができないことになつたから、控訴人の本件訴訟はその利益がないものとして棄却せられねばならぬものである。けだし、新弁護士法は弁護士および弁護士会に対する指導監督の権限を日本弁護士連合会の專権に属させて、その完全な自治を確立したものであつて、本件のような場合についても何等の経過規定を設けなかつたのである。されば、控訴人は改めて新弁護士法によつて東京弁護士会、その他の弁護士会に、入会の申込および弁護士名簿登録進達の請求をなし、もしこれが拒絶せられた場合には、日本弁護士連合会に対し不服の申立をすることによつて、その救済を求めればよいのであると付加陳述したほかは、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。(立証省略)

三、理  由

当審において、被控訴代理人は、弁護士法の改正により被控訴人法務総裁は弁護士会に対する監督の権限をもたないことになり、東京弁護士会に対し弁護士登録の進達を命ずることができないことになつたので、本訴は利益のない訴訟であると抗爭するから、まずこの点を判断するに、なるほど、本訴が当裁判所に係属中である昭和二十四年九月一日に、昭和二十四年法律第二百五号弁護士法(以下新弁護士法と称す。)が施行され、同法によれば、弁護士名簿に登録を請求するには、入会しようとする弁護士会を経て、日本弁護士連合会に対しこれをしなければならぬものであり、弁護士会が日本弁護士連合会への登録の請求の進達を拒絶したときは、登録請求者は日本弁護士連合会に異議の申立をすることができ、その結果申立を棄却するか、または弁護士会に進達を命ずるかは、一に日本弁護士連合会が資格審査会の議決に基き定めるところであり、今日においては、被控訴人法務総裁は弁護士名簿登録手続に関し何等の権限をも有しないものであることは明瞭であるが、控訴人が東京弁護士会を経て、被控訴人(当時は司法大臣)に本件弁護士名簿登録請求をなし、同弁護士会がその進達を拒絶したので、控訴人が被控訴人に対し不服の申立をなし、右弁護士会に進達を命ずるよう請求したところ被控訴人がこの不服申立を理由なしとして却下したのは、新弁護士法施行前である昭和二十二年六月三日であることは当事者間に爭がないから、被控訴人の右不服申立却下の処分はもとより当時その有する権限に基いてなされたものであることは明白である。そうして本訴は過去になされた右処分の当否を爭いその取消を求めるものであるから(控訴人は被控訴人に対し進達をなせとの給付命令を請求しているが、これは行政処分の内容であつて裁判所の命じ得るところでない、裁判所のなし得ることは行政処分の取消と変更だけである。)行政組織上法務総裁の地位が從前通り継続存在している以上、被控訴人はなお当事者適格を有するもので、現在被控訴人が弁護士会に登録の進達を命ずる権限があるか否かは、本訴請求の成否に影響をおよぼさないといわねばならぬ。すなわち本訴において、被控訴人の不服申立却下の処分が適法と確定すれば、控訴人の請求は理由のないものとして事件は終了するし、また右処分が違法で取り消されねばならぬものと確定すれば、被控訴人の不服申立却下の処分がなかつた状態に復帰するもので、被控訴人は新弁護士法第八十五條、第八十七條の趣旨にのつとりこの状態において弁護士登録請求事件を日本弁護士連合会に引き継き、爾後の処分は同連合会においてこれを処理するのを相当と考えられる。從つて被控訴人が現在進達の命令権を有しないとの理由で、本訴を利益のないものとする被控訴代理人の主張は採用ができない。よつて進んで控訴人の本案請求に付き判断するに、控訴人が原判決中控訴人の請求原因としての事実摘示中(一)に掲げてあるような経歴を有し、昭和二十年十月十七日勅令第五八一号復権令によつて復権の上弁護士たる資格を回復し、同二十一年二月十四日東京弁護士会を経由して、被控訴人(当時司法大臣)に弁護士登録の請求をなしたところ、同弁護士会は被控訴人に対する右登録請求の進達を拒絶したので、控訴人は当時施行せられていた昭和八年法律第五十三号弁護士法(以下旧弁護士法と称する)第十三條第一項によつて、被控訴人に対し不服の申立をなし、東京弁護士会に登録請求の進達を命ぜられたい旨求めたが、被控訴人は同年六月三日その申立を理由なしとして却下したことは、当事者間に爭のないところである。そうして右弁護士会および被控訴人が控訴人の請求および不服申立をいれなかつた理由が被控訴人の答弁として原判決の事実摘示中に掲げてある第一、控訴人がその主張のように過去において弁護士としての業務に関し数次の犯罪を反覆累行し、二回にわたり有罪判決の言渡を受けたこと、第二、控訴人がその弁護士登録が取消された後においても、被疑事件および刑事被告事件に関し弁護士類似の所爲を反覆したこと、第三、控訴人が東京弁護士会と横浜弁護士会とにおいて、会費滯納の故をもつて除名処分に付せられたことの三つの事実関係に基き、控訴人が旧弁護士法第十二條にいわゆる弁護士会の秩序または信用を害する虞ある者に該当すると認定されたによるものであることは、成立に爭のない乙第二号証、甲第六号証およびその添付のそ明書類のそ明一、二、七、十および十一、甲第七号証ならびに原審証人岡原昌男の証言に徴し明白である。そうして前掲の三つの事実関係において示されたような行爲(控訴人がかかる行爲をしたことはその認むるところである。)をした控訴人が、旧弁護士法第十二條にいわゆる弁護士会の秩序または信用を害する虞ある者に該当すると認定するのは相当であるから、被控訴人が審査委員会にし問の上、東京弁護士会の弁護士名簿登録請求の進達を拒絶したのを正当と認めたのは何等不法でない、控訴人は東京弁護士会が登録請求の進達を拒絶し、被控訴人が進達命令の請求を拒否した処分は違法であると主張し、その事由として原判決事実摘示中控訴人の請求原因中に掲げてある(い)ないし(に)の事実を挙げているが、当裁判所はいずれもその理由がないと認定するところであつて、その根拠とする所以は原判決の理由と全く同一であるから、ここにこれを引用する。

なお控訴人は被控訴人が控訴人の不服申立を却下した処分の当否を判断するには、その処分のなされた昭和二十二年六月三日までの事実関係のみが審理判断の対象となるものであつて、その後における昭和二十三年中の控訴人の弁護士類似の行爲の如きは、本訴において云爲されるものでないと主張するが、控訴人に弁護士会の秩序または信用を害する虞があるか否かを被控訴人が判断し、東京弁護士会の弁護士名簿登録請求進達拒絶の当否を定めるには、控訴人の人格を評價してなされるものであるから、被控訴人のなした人格評價の認定の正しかつたことが、その後に控訴人の行つた弁護士として好ましくない行動によつて裏書きされ、この事実によつて遡及して不服申立却下当時すでにかかる行動をなす性格を保有しておつたもので、その性格がたまたま斯様な現実の行動によつて後日表面化されたものと認定し、被控訴人の処分の正当性を肯定することは何等妨げがない、そうすれば被控訴人が不服申立却下以後においてなされた控訴人の行動をもつて、その処分の正当なことを主張するのは差支がなくて乙第五、六号証によれば、昭和二十三年中控訴人は被控訴人の主張の如く、東京地方裁判所その他において数多の刑事被告事件に弁護人として関與し、弁護行爲をなし、中には弁護人選任届に弁護士栗田寅千代なる職印を使用した事実等が認められるから、控訴人は弁護士会の秩序または信用を害するおそれあること勿論で、被控訴人の処分は正当であつたと認めるに十分である。

以上説示の通りであるから、被控訴人の前示不服申立却下処分は相当であり、これが取消を求むる控訴人の本訴請求は排斥をまぬがれないもので、本控訴は理由がない、よつてこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四條第八十九條を適用して主文の如く判決した。

(裁判官 中島登喜治 箕田正一 小堀保)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!